「黒ずんでて、引っ張ったらすぐ取れるのが熟れているやつだから。」
そうおばちゃんに教えられて私と
マー坊
(←クリックすると注釈が表示されます)は山道の途中に生えている野いちごの実を一心
に摘んでいる。
初春の野いちごの実はとても甘くておいしいのだが、それよりも何よりも、さっき出会ったばかりのおばさん
と一緒にこうやってペチャクチャとしゃべりながら野イチゴを摘んでいる状況が楽しくて仕方がない。
ここは沖縄本島から大型船で1時間ほど行ったところにある離島、渡嘉敷島。
3月17日から11日間の休暇を取って、マー坊とふたりで沖縄まで旅行に来たのだが、「どうせなら本島だけじゃなくて
他の島にも行ってみよう」ということで、フェリーに乗ること約1時間、ここ渡嘉敷島にやってきたのだ。どうもこの島は
ダイビングでは非常に有名な島らしいのだが、ダイビングをやらない私たちはそのポイントに惹かれたわけではなく、
ただ単なる気まぐれで、交通の便のよさとか、船の運賃の値段なんかを見てこの島を選んだのだ。
船が発着する港から民宿が集まる阿波連(あはれん)地区へは少し離れていて、バスで移動しなければならない。
バスとは言っても時刻表があるわけではなく、あくまでも気まぐれ。船が着く頃になると阿波連からワンボックスカーが
やってきて乗客を乗せて阿波連に戻っていく。また、反対に阿波連から港へも決まった時間の便があるわけではなく、
集落を流しているバスを呼び止めたり、電話をして来てもらって乗るという、限りなくタクシーに近いバスなのだ。
しかもそのバスたるや、たった1台しかなくて、おばちゃんが一人で大忙しで運転している。
私が港に着いた時もこのバス(タクシー?)のおばちゃんが来ていて「阿波連に行くなら乗って!」と声をかけられて
乗り込んだのだ。阿波連までは山をひとつ越えて行くのだが、その道の途中で、おばちゃんが急にブレーキをかけて、
バックしだした。何だろうと思っていると、おばちゃんが振り返り
「野いちごがなってる!ちょっと降りて!」
と言う。何だかよくわからないうちに車を降りて、気がついた時には3人で必死になって野いちごを収穫しているわけである。
「あっ!あそこにもある!おいしそうだねぇ!ほら、そこのフェンス上って!」と。
都会ではバスが急に停まって
野いちご狩りを始めるなんていうことはまずありえない。「効率」だとか「利益」だとか、そんな世知辛いこととは無縁な、
ゆったりとした時間がこの島には流れているのである。
宿にチェックインをしたその後はマー坊とふたりで阿波連の集落をのんびりフラフラと散
歩。美しい海に美しい夕日が眩しすぎて、僕の心はとろけてしまうのであった。
Next page>>